やさしい共犯 | momoiroHuman

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やさしい共犯

「むー……わたしの分、玉ねぎ多くない?」
「そりゃあそうでしょ。これはアンタのため。苦手なものを克服するためよ!」

 なんてことのないある日の夜、みんなの夕飯をそれぞれの器に盛りつけながら桃也が言う。その言葉に唇を尖らせることしかできない小百合は、「でもかつ丼だ。嬉しいなあ」なんて言って、彼を手伝いつつ自分の席に着いた。

「遅れました」
「ごめんなさい、お勉強を見てもらってて」
「ぼくもー」

 それぞれが階段を降りる足音とともに、遅れて真人とあめりと英里が席に着く。三者三様の反応を桃也のごちそうに見せた後、家長の着席を待っていた。その桃也はキッチンの後片付けを優先することにしたのか、子どもたちへ告げる。

「アタシのことは気にしないでいいから。さっさと食べちゃいなさい」
「あ……うん」
「はぁ〜い」
「いただきます!」

 各々が手を合わせ、晩御飯を食べ始める。早速大きめのかつを頬張った小百合は、「ん〜!」なんてうわずった声を出した。英里は一生懸命ぱくぱくと頬張り、あめりはお上品にお味噌汁を啜る。真人は別のお皿に添えられたサラダにドレッシングをかけていた。

「陣内さん、おいしいよ〜」
「そりゃあ良かったわ。玉ねぎも全部食べなさいよ」
「う! はあい」

 どこか安心感を覚えるこんなやりとりも、いつの間にかいつものことになった。流し台の蛇口を閉めエプロンを外した桃也がやっと席につくが、ふと小百合の口元を見て「子どもねぇ」と言った。彼が呆れた顔で小指でツンツンと頬を突く。それに気づき、小百合は慌ててそのあたりに自分の指を当てはじめるが、横に座っていた真人がするりと米粒を取った。

「……もっと落ち着いて食べて」
「は、……はあい」

 すこし低い声でたしなめられ、小百合は縮こまってしまう。すかさず英里が「ぼくのほうがきれいにたべられるよ」と言った。真人が「ん」と頷いて見せるので、嬉しそうにする英里。年下にからかわれた恥ずかしさもあったけれど――真人の不意の対応に照れている小百合を見て、何の気なく桃也が零す。

「ホントに……真人は小百合のお兄ちゃんねー。ある意味お似合いだわ?」
「…………、やめてください。こんなでかい妹」

 面倒見きれません。と真人が静かに首を振る。口元に手を当てて笑うあめりは変わらず愛らしく、その流れで英里が小学校であった話を始めた。自分で始まった話なのにうまく入れなくて、小百合は彼女にしてはひかえめに夕食を平らげた。

    ◆

 ──やがて、夜がとっぷり更けるころ。喉が渇いた小百合は暗いキッチンで水を少し飲み、自室に戻るために二階の廊下を歩いていた。壁に掛けられた「暦の掲示板」、暦に住む住人の予定がそれぞれの字で書かれている。自分の列より二つ上に、少し右下がりな文字で書かれた字。それを書いた主に思考が行って、胸がきゅっと締まった小百合はきょろきょろと辺りを見回す。二階には子どもたちと、桃也の部屋がある。皆寝静まっているのか、人の気配は感じない。窓から差し込む月明かりを頼りに、自分の部屋から向かいの部屋の扉をそっとノックをする。意外にも鍵はかかっていなかった。

「……電気つけて」

 キイ、と思ったより大きく扉が鳴って小百合はびっくりしていたが、その真っ暗な部屋の中、パソコンのモニターから漏れる光で確認できる輪郭が動いた。真人がそう言ったのだ。
 小百合は言われた通りに部屋の電気をつける。暗がりからふわりと明るくなった空間に、彼の朱色のような色合いの髪が浮かびあがった。

「もう……真人ったら。またこんな夜遅くまで、暗いお部屋でパソコンしてたの?」
「気づいたら日が暮れてたんです」
「目、悪くなっちゃうよ」
「……すでに悪いので」

 相変わらずの、丁寧語混じりの慇懃無礼な振る舞い。でも、彼の誠実さを知っている小百合はその淡々とした距離感にもすっかり慣れていた。彼の部屋の扉をやさしく閉じた小百合は、純粋な好奇心で「ねえ」なんて投げかけて彼のデスクに近づきパソコンの画面を見る。

「なにやってるの?」

 だけど真人はこちらに目もくれず、すぐウィンドウを隠してしまった。

「別に。あんたには関係ないだろ」
「うー」

 とはいえ出会ったばかりの頃なんて、間違えて彼の部屋に入った時は烈火の如く怒られたものだ。それに比べたら、“あの夏”以降の彼はだいぶ優しくなった。……ううん、なったんじゃなくて、抱えすぎてた荷物を少し下ろしたのかも。息苦しそうに見えた背中に心配を募らせたこともあったけど、今の彼の背中には以前よりずっと、少年らしいゆとりを感じられる。
 ふと、小百合は夕食の時上がった話題を思い出しながらそれを投げかけた。

「……ね、どうしよう。お夕飯の時の話」
「……ん?」

 少しだけ、彼がこちらに目を向ける。ずっと前から、真人の相槌が好きだ。彼に直接伝えたことはないけれど。どんな時も、必ず返してくれるからだ。今日も変わらず返ってきたなんてことのない短い一音に胸をときめかせながら、小百合は続ける。

「陣内さんに“お似合いだ”って言われちゃったでしょ」
「…………忘れてました」

 そう、こんな何気ない会話にすら、自分がどきどきしていることを彼はきっと知らない。でも、自然に会話が出来て、返事がくる「当たり前」にうきうきしていたから、小百合は真人の返しが少し面白くなさそうなことに気づかなかった。

「わたし、嬉しかったの」
「何が」

 真人は小百合の来訪に自分の目的を諦めたのか、使用していたパソコンの画面を落とした。相槌こそすれど、メモリアの操作をはじめる彼のやや冷めた仕草。それにやっと気づいた小百合は内心すこし狼狽えながらも気持ちを述べた。

「え、だから……真人と、その」
「……院長はそういう意味で言ったんじゃないと思いますよ」

 まるで、彼を「異性として」意識する自分をたしなめるみたいに真人は言う。
 ──人の心はわからない。彼がどれだけ自分に真摯に接してくれても、その真意なんて知りようはない。わかっている。だけど徐々に縮まる距離と普段の彼の落ち着いた応対に、少なからず初めての純粋な恋心を育てていた小百合に、いささかそれは冷たく映った。

「……もう寝る。あんたも自分の部屋に戻って」

 そう言いながらまた目をそらして、寝る支度をはじめる彼に近づき、小百合は思わずその手を掴む。

「……あ、あんまり冷たくしないで。わたしにとって、真人は……お兄ちゃん、なんだから」

 血が通いあたたかい真人の指を飾る節々を撫でると、また胸がきゅうと締まった。小百合は意識して少し甘えるように、お願いするように言った。
 ──“お兄ちゃん”なんて、意識して口にしたのは何年振りだろう。その言葉を自分の意思で発した時、どこか胸が苦しくなる思いがした。彼はどう思ったんだろう。やや間をおいて真人が振り向いた。その青い瞳が孕んでいるのはどんな気持ちなのか、思いが及ぶ前に真人が言う。

「…………あんたにとっては、そうでも」
「?」

 吐息が多く乗った溜息のような声とともに、結ばれた指先を解いて……真人はおもむろに小百合の唇に指を這わせた。ごつごつして、確かな重さを持つそれに小百合の身がすくむ。

「ひゃっ……!」

 すり、と柔らかい所を彼の親指がなぞった。

「僕にとっては、そうじゃない。……あんたのこと……ただの妹だなんて、思ってないんで」

 ──だけど、それ以上はなにもなかった。きっと、小百合が酷い顔をしていたからだ。さっと手のひらが離れても、高鳴る心臓に支配され立ち尽くす小百合を見て、真人は若干「しまった」とでもいうような形に眉を顰め、頰を染める。
 でもまたいつもの表情に戻って、そっぽを向いた。

「……変なこと言った。忘れてください」

 そのまま何事もなかったように寝る支度を再開する彼に、すこしだけ止まっていた小百合が我に返る。

「ま、待って……」

 考えるより先に溢れた弱々しい自分の声とは裏腹に、再び彼の腕を掴んだ手にぎゅっと力がこもる。

「……っ」

 いつの間にか耳までほんのり赤く染め、どこか困った表情を見せる彼を見て、感じたことのない感情が身体を駆け抜けた。けど、違う。

「ま、真人は、お兄ちゃん、だけど……でも、真人なら……わたし、何されても、いい」

 ──自分でもとんでもないことを言っている気がする。でも、こっちを見てほしい。揺らいでほしい。たっぷり呼吸をおいて、真人が絞り出すような声を出した。

「…………バカじゃ……ないですか。寝言は寝て言え。てか、早く寝て」
「ば、バカじゃないもん……! 真人なら、きっと、……や、やさしいし?」
「……あんたのそういうとこ。嫌い」
「うー……!」

 そういう、本心を見せてくれない……箸にも棒にも引っかからないような態度は、わたしも嫌いだ。
 謎に張り合いつつ、でも、一度火がついたときめきを、夢見る彼女は簡単に追い払えない。そうだ、だって先にわたしの唇に指を添えたのは向こうだ。小百合は彼の腕から手を離し、そのままぎし、と音を立てて彼のベッドに乗り上がる。
 ──確か入所するときにカーテンやシーツの柄とか、陣内さんが選ばせてくれたと思うんだけど。真人の部屋にあるものは、基本、どれも飾りっ気が無かった。

「……何してるんですか」

 突拍子のない行動を見て逆に落ち着いたのか、呆れっ面の真人。お構いなしに腰を預け、手招きをした。

「一緒に寝ようよ。お兄ちゃん」
「……寝ないし。ベッド使いたいなら……もう、好きにどうぞ」

 どんな思考をしてくれたのか。わからないけど、真人は落ち着きを取り戻したように見えた。短く溜息をつき、仕方なくゲーミング用チェアに向かおうとする彼の澄ました横顔に、自分がどれだけいろんな感情を育てたと思っているのか。なんだか腹が立って、ベッドから勢いよく立ち上がった小百合は後ろから思い切り彼の身体を抱きしめた。
 寝る前だから、帽子もマフラーもしていない彼の露わになった首筋だって無防備だ。意を決して、ちゅ、と唇を押し当てる。真人は本当にびっくりしたように、肩を揺らしていた。

「っ……! あんた、何して……」

 弾けるように振り返り、顔を真っ赤にした彼の頬はまるでりんごみたいだから、そこにも押し付けるようにキスをした。真人が「っう、」と漏らした声は、なんだか可愛かった。

「…………わたしだって、女だもん。……妹じゃ、無いんだから……」

 とうとう繕えない、濁ったエゴが零れた。抱きしめた彼の身体から伝わる心地のいい体温。それが一気に、自分ではない他人から与えられる刺激に変わる。真人の声が揺らいでいる。

「やめ、……あんた、自分が何言ってるかわかってんのか……!」
「……わかってるよ。わたしがどれだけ真人がすきか、証明してあげるの」

 引き返す選択肢はなかった──だって、思ったよりずっと脈のある反応だったんだもの。溢れた我儘はもう止められない。でもまだなんとか、真人は小百合のキスを躱そうと顔を背けていた。

「いい加減に、しろって……、」

 絞り出すように言いながら、耳まで真っ赤っかだ。熱を帯びた彼の肌を感じて、小百合の肌も熱くなる。振り解こうとする真人の首筋や鎖骨も、唇で愛撫する。自分と同じ作りなのに自分より骨ばったそれが、彼を「異性」だと感じさせる。

「……んっ……やめ……ろ……っ」

 また一際びく、と肩を震わせた真人に少し胸がスカッとした。──わたし、これでも力あるし。きみよりずっと、その、場数──戦闘とかのね? を踏んでるもん。そう思い、その勢いのままに彼をベッドに押し倒す。再び向き直ってじっと見つめた彼の表情は、動揺に揺れて、思ってたよりもっとあどけなくて。
 ──そういうところも、好き。彼の無防備な唇に、今度は大胆に自分の唇を重ねる。

「……!」

 焦るように身動ぎをする彼を押さえ込んで、角度を変えながら何度も。

「んっ……んむっ」

 はじめてのキスは、ムードもへったくれもない、ひどくぎこちないものだった。だけど、止まらなくて。唇を離しても、またすぐに重ねて、すこし呼吸が苦しくなってもまた重ねる。それは数秒だったかもしれないし数分だったかもしれない。
 一際長いキスを経て唇が離れると、二人とも肩で息をしていた。はじめての経験のひとつを好きな人で果たすことが出来て、夢見心地の小百合はへらりと笑った。

「……どう? わたしの気持ち、すこしは伝わった?」
「…………っ! バカかあんた!!」

 いつもよりずっと大きな声で叫び、物凄い顔をした真人にぐいと引っ張られる。そのまま、体勢が逆転した。押し倒され、ベッドが二人分の体重でぎしりと音を立てる。もう夜遅いのに、騒いじゃダメだよ、なんて今更少し思って。それ以上の興奮が小百合の胸の内側を容赦なく叩いていた。

「…………真人、怒った?」
「……黙って」

 地を這うような真人の声に神経が粟立つ。その目は今まで見たことのないような色をしていて、小百合はぞく、とする。
 ──ああ、やっぱりこの人も男なんだ。なんて。

「……えへへ。まだ、証明が足りない? じゃあ……」

 挑発するような、甘ったるい声を作る。じいと注がれた真人の視線に灼かされるようだ。彼の、この瞳を誘発したのは自分だ。今ならどんな大胆な事だってできる。──ううん、したい。見てほしい。目の前で揺れる異性をまるで誘うような声を出して、小百合は着ていたルームウェアのファスナーを下げる。じいっという音に、自分自身が迫り立てられた。出来る限り色っぽく、無防備に肌をはだけさせる。

「ここも触ってよ」
「……」

 ──真人は無言で、小百合の首筋に顔を埋めた。ほら、答えてくれた。そういうところが、わたしは。

「……ぁっ」

 熱く濡れた彼の舌先でじっくりと首筋を舐め上げられると、今まで出したことも無いような甘い声が自然と漏れた。

「えへ……まこと、乱暴」
「……」
「ねえ。教えて。わたしのこと、どうしたいの?」
「……。……黙れって言っただろ」

 必要以上にらしくない強い言葉が出てるとき、きみは自分と、自分の心を守ろうとしてる。そういうのも、ずっと見てきたからわかる。だから彼の枷を外すみたいに、小百合は柔く囁くように彼の耳元で言った。

「わたし……おこりんぼな“お兄ちゃん”のことも好きだよ?」
「……」

 唐突に小百合の顎に大きな手があてがわれ、くっと上に持ち上げられる。そのまま彼は自分の口で、小百合の口を塞いだ。乱暴に舌をねじ込まれる。──うれしい。熱暴走を起こす脳内で、小百合は間違いなくそう思った。

「んぅっ」

 剥き出しになった感情をぶつけるような激しいキスに翻弄されながらも応える。真人の手が服の中に滑り込んできて、下着越しに胸に触れる。

「っ……!」

 するり、と触れられただけなのに身体が大きくびくりと跳ねた。まるで、喜びに震えるみたいに。

「ふざけんなよ」

 耳元でどす黒く囁かれた言葉にまたぞくりとした。突き刺すような声音に脳が揺れた。そのまま胸を揉まれる。優しく包み込むように、でもすぐに乱暴に。縦横無尽に揉みしだかれて、下着から胸の天辺がこぼれてしまった。恥ずかしさを感じるより前に、行為の勢いに押し流される。

「っ……柔らか……」
「んっ……ぁ、……まこ、と、……興奮、してる」
「……うるさい。あんたもここ、硬くしてんじゃん……」

 彼の荒い呼吸が嬉しくて小百合はそう伝えたが、真人はお気に召さなかったようだ。吐き捨てるような台詞と共に乳首を摘ままれた。感じたことのない衝撃に、また大きくびくんっと体が震える。

「ひゃっ!!」
「気持ちいいんだ?」
「わ、わかんな……っ、あっ」

 そのまま指先で転がすようにされると、じわりと快感が広がった。こんな、自分でもちゃんと触ったことが無いようなところを、慕っている彼の指先が容赦なく蹂躙している。絶えず押し寄せる刺激にだらしなく息を荒げる小百合をよそに、真人は彼女の胸元に顔を寄せて口を開ける。そのまま先端を口に含むと転がすように舐り始めた。舌先で膨らみを弄びながら時折強く吸い上げる。そのたびに甘い痺れが走って、情けなく腰が浮いた。

「あっ……! まこ、……それダメ……っ」
「ふ、……ダメって言ってる割に、……ん、腰、すごい、動いてるけど」
「だっ、てぇ……っ」

 容赦なく、気持ちよさを与えられる。力強く貪られるから、跳ねる水音も容赦がない。感覚も視覚も聴覚も真人に握られている、そう思うと徐々に下腹部が熱くなっていくのを感じた。無意識に膝を擦り合わせてしまう。それに気づいたのか真人は、小百合の太腿の間にその手のひらを割って入れ、足を閉じられなくしてしまった。
 そして胸の愛撫を続けながら、内腿をゆるく撫ぜたかと思うと、一気に下着の中まで手を入れてきた。

「ひゃあっ!」

 どんどんと速度が上がる色欲を帯びたやり取りに、驚きのあまり大きな声が出てしまった。自分が望んだことであっても、真人がそうしてくれたら嬉しいと思っていても。実際は夢を見るよりずっと性急で、余裕が無くて──慌てて口を押さえるが遅かったようだ。真人が、見たことない顔で自分を見つめている。……頭がぐらぐらした。彼は少しだけ笑っていた。

「ここ、濡れてる」
「そ……んなこと……!」
「──ほら」

 ぬるりと股座を、割れ目を撫でられたかと思うと、真人は指に絡みつく蜜を見せつけるようにして小百合の目の前に持ってきた。何が、起こっているのか分からない。はっ、はっ、と興奮で小刻みに息をする小百合の前で、真人はすっとその指を自分の口に運んだ。小さく何かを言って、赤い舌でそれを舐めていた。
 その光景があまりにも煽情的で、思わず唾を飲み込んでしまう。こんなの、想像したことも無い。煽ったのは自分だけど、でも、今の彼は自分が知ってるどんな顔とも違う。こんなに容易く「家族」の境界は、踏み越えられるものなのか。
 茹だった思考が理性をぼやかす。だけど動揺とは裏腹に、情けなく蕩け出している自分の顔をなぜだか彼に見せたくなくて、小百合は思わず顔を背ける。今更だ。真人はそれを咎めるように再びキスをする。その間も濡れる指先は、大事な所を撫でさするように蠢いている。小百合の身体がびくびくと反応した。

「んっ……んんっ」
「……あんたも触って」

 真人が小百合の手を掴んで、下着越しに自分の股間に当てさせる。これにもびっくりしたけれど、小百合は彼のその動作に興奮していた。自分の身体には存在しないその部位に、恐る恐る触れる。それは既に大きく膨らんでいて、思った以上に硬くて──小百合が縋るように真人を見ると、彼はしかめっ面で、でもどこか切なそうな顔で、息を吐いていた。それを見て、小百合は無意識に呟いた。

「……嬉しい……」
「……何が」

 妙な発言だと思ったのか、真人が怪訝そうにする。小百合は真人の動作に勝手に“誠実さ”を見いだしていた。彼はわたしの大事な所を乱暴に暴いて、わたしの恥ずかしい状態を容赦なく見せてきて──そして、わたしにも教えてくれたのだ。真人自身も同じ状態であると。彼の本心がどうであってもいい、小百合にとってそれがとても、心地よかった。

「わたしに触って、こんなに……」
「……」
「真人、……はじめて?」
「…………関係ないだろ。続けて」

 ──もし真人に経験があったら、それはそれでちょっとショックだけど、と言った後わずかに思った。小百合は彼に言われるがままに、硬度を持っているそれをそっと握ってみる。布を越してでも、熱くて硬い感触が伝わってきて。今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じつつ、それでもここからどうしたら良いのかわからない。ただ、自分の下半身も重く疼いている。
 確実に近づく「境界を越える瞬間」に、喉が渇くかのような錯覚を覚えていた。硬直している小百合を見て、真人が鋭く息を吐く。

「あんたこそ……、初めてのくせに」

 隠すつもりなどなかったけど、真人も答えを教えてくれた。お互いが初めてなのは火を見るより明らかだ。それを噛み締めたのか真人は低く唸るように「よくもあんな、煽り方して……」と恨めしく言う。そして、ひと足先にあられもない姿をしている小百合に合わせて、自分の下着をずり下ろした。
 ぶる、と膨張した彼の雄が飛び出して、小百合は思わず身をすくませる。思ったよりずっと、凶悪だ。

「うわっ」

 びっくりしすぎてひどい声が出た。

「あんたのせいだ」

 小百合の反応が心外だったのか、真人は怒ったように唸った。んく、と息を呑み、でも強い興奮を抑えられず小百合はこわごわと彼のものに触れた。芯を持った熱さに手のひらを灼きながら、わずかに震える先端にも触れると真人もビクンッと震えた。そのまま、その形に導かれるようにゆっくり上下に擦ってみる。真人の息が荒くなっている。

「……っ……」
「ま、こと……気持ちいい?」
「……」

 真人は答えず、目を瞑った。それはこの上なく分かりやすい肯定だった。小百合はぐっと嬉しくなって手を動かし続ける。でも自分自身の下半身もどんどん抑えが効かなくなっているのもわかった。だから思わず手を止めて、こう言った。

「……わたしにも、して」

 真人が目を開けて小百合を見つめる。視線が絡み合う。──目を合わせるって、こんなに恥ずかしかったっけ。色んな感情が混ざって潤んでいく瞳を彼に向けたまま、浅ましい欲望を口にした。

「もっと、気持ちよくなりたい」

 彼が小さく舌打ちをした。そのまま小百合は下着をずるりと脱がされる。仰向けで両脚を開かされ、今までとてもやったことのないような情けない姿勢になった。隠すものをなくし、露わになった恥部が赤く熟れきってぱくぱくと痙攣している。真人が指を一本、ゆっくり挿し入れると蜜が溢れ出した。こんな繊細な所、胸以上に自分でまともに触ったことが無い。外部からの刺激で体が小刻みに震える。彼が指をゆるく動かすたびに水音が響く。なにひとつとして、想像したことのない未知の領域に小百合は羞恥で耳まで赤く染まった。抑えられなくて、嬌声が漏れる。

「あっ……あっ」
「……もっと声出して」

 真人の指がとくに敏感な部分に触れた瞬間、小百合の背中がたわみ、電流が走った。

「やっ……ああっ……そこだめぇ、っ」
「駄目じゃないだろ……こんな、締め付けてくるくせに」

 小百合の顔と身体の具合を見て、もう一本指が増える。じゅぷじゅぷと呑み込む柔らかな秘部を暴くよう、彼は指を動かし始めた。感じたことのない強い快感に、小百合は喘ぐことしかできなくなる。痛いのに、気持ちよくて、怖いのに、もっと欲しいのだ。そのうち、真人も我慢できなくなったのか膝のあたりで引っかかっていたズボンと下着を脱ぎ捨てた。ぐちゃぐちゃになった欲望を露わにし、小百合の膝裏に手を入れ足を開かせる。──急にとても不安になり、真人を見つめた。いつの間にか、互いに汗をかいている。深く息を吐き、彼が言う。

「あのさ、さっきあんた言ってたけど」
「……」
「僕は“お兄ちゃん”なんかじゃないし、あんたは“妹”じゃないから。……わかってるんだろ」

 膝裏に添えられた手に力がこもって、何度目かのぞくりとした感覚に襲われる。小百合はゆっくりと頷いた。

「うん……」
「あんたが勝手に踏み越えたんだ。もう……戻れないから」

 零れ落ちるように耳に届いたその言葉は何より重かった。そして、どうしようもなく嬉しかった。小百合が返事を返すより先に、彼のものが体内にゆっくりと入ってくる。想像もつかない圧迫感と痛みに、思わず顔を歪めた。

「痛っ……!」
「……大丈夫?」

 ──何を言っても、やっぱり真人は“お兄ちゃん”だ。怒られるかもしれないけど、そう思った。さっきまであんなに男の顔をしていたのに、痛みを訴えた自分に対して、まるで怪我をした妹を伺う兄のような、そんな顔をしていたから。一際大きく心臓が鳴り、ありえないくらい気持ちが乱れた。小百合は、はふ、と大きく息を零し、首を縦に振った。

「だいじょうぶ……だけど……、少し……待って……」

 愛おしさと同じくらい、痛みが身体中を駆け抜けている。好きな相手を受け入れる行為の重みは、こんなにも苦しいものだった。それ以上に真人はきっと辛抱できないようなところまで来ているのに、「……ん」と告げて、その動きを制止した。
 ──あのね、わたしはそういうとこも。

「……キス、して?」

 懇願から少し間が開いて、真人は言われた通り──彼女の内側に深く自身を差し込み過ぎないように、ゆっくり顔を寄せて、小百合にキスをした。まるで本当のファーストキスのような甘い空気だ。不思議だった。はじめは軽く、次第に深くなっていく。最初よりずっと繊細に舌を絡めあいながら唾液を交換する。唇が離れるとつうっと銀の糸が引いた。

「ん……っ……」
「……小百合」
「ふえ……? あ……ッ!」

 不意打ちで甘く呼ばれた自分の名前は、びっくりするくらい心地よくて。柔らかなキスにぽうっとして、痛みを忘れてふわふわしていたら、真人がぐうっと腰を動かした。

「ひゃっ……ああっ……」
「……きつい」

 自分以外の誰かを受け入れるための場所に、大事な人が入り込んだ。いろんな感情が一気に溢れて、小百合はじわりと涙を浮かべた。でもやっぱり最初から彼のための場所を作るのは難しくって。眉をしかめ零した真人の呟きに首を振った。

「っ……ごめ……」
「……なんであんたが謝んだよ……」

 溢れ出す蜜とともにじわりと滲む赤い色に、真人が気づかないわけないはずだ。でも、真人はそう言ってまた動き始める。最初はゆっくりだったけれど、少しずつ抽送が速くなり、痛みを置き去りにするような快楽が打ち付けられ始める。結合部からぐちゅぐちゅと、いやらしい音が鳴る。こんな音が、自分の身体から鳴っていることが信じられない。

「あっ……あんっ」
「……っ……小百合……っ」
「あっ……まことっ……ああっ……」
「……っく……っ」
「まことぉ……」

 最奥を抉られる感覚がして、一気に互いの身体が近づいたことが分かった。もううわ言のような悲鳴を零すことしかできない小百合は、揺さぶられながら真人の背中に腕を回して抱きついた。大事な所を、彼に暴かれている。痛くて苦しくて仕方ないのに、おかしいほどに気持ち良い。真人も小百合を抱き寄せて、どうしようもないように言った。

「っ、甘えんぼ……」

 否が応でも「男女」としての互いの性が昂り、絡み合い、噛み合うのを感じる。晒された互いの肌がしっとりと湿っている。真人は、破瓜の痛みをこらえる小百合を気遣って動いているように見えた。彼女にはそう感じられたからこそ、小百合は甘え声で真人に縋っていたし、繋がる部分以外にも快感が分散するよう、真人も小百合の唇を──胸の先や首筋を、あらゆる部分を可愛がる。作法も知らない欲に従った激しい動きで、味気ないシーツに薄赤い染みが出来ていく。いよいよ、真人が吐き出すように告げた。

「もう……、あんま余裕ない」

 最初よりずっと、スムーズに擦れ合うようになってきた結合部をさらにぐちゅぐちゅと鳴らし、真人がもっと乱暴に腰を動かす。ちかちか光が瞬く中でも、何かの終わりに向かっているのが小百合にも分かった。痛みより気持ちよさが滲む喘ぎが勝手に零れる。

「あっ……あんっ……やぁっ」
「……きもちい」

 彼がぽつりと呟いた言葉がしっかり耳に落ちてきて、小百合は嬉しくなった。独りよがりの行為でないことが涙が出るくらい嬉しかった。真人にかつてつけられた横腹を縫い合わせた傷跡が、軋むような歓喜の痛みを訴える。

「あっ……まこ、まこと……わたしもっ……あぁっ」
「小百合……かわいい……」

 どうにか想いを伝えたのに、それ以上に堪らないような声で真人が耳元で囁いた。全身が震える。今までだって一度も言われたことがないその言葉で、秘部は血を押し流すように蜜を溢れさせ、幸せを叫んだ。

「あっ……あっ……あぁっ……!」
「……小百合……」
「やっ……あっ……まこ、また呼んでっ……名前っ……んぁっ」
「小百合っ」
「もっと、ぉ」
「小百合……っ」
「まことぉ……っ」
「さゆ……りっ……」

 何度もお互いに名前を呼び交わして、絶頂まで駆け抜けて。

「あっ……ああぁっ!」
「っ……!」

 ──そうして、真人が小百合の中で果てた。その感覚に彼女も一際大きくビクビクッと震える。身体中がだらしないほどに痙攣している。息つく間もなく真人が小百合の上に覆いかぶさってきた。ぎゅうと抱き潰される。熱い。苦しい。嬉しい。荒い呼吸が大分収まる頃には、二人とも汗だくになっていた。
 小百合は真人の背中に回していた腕をほどいて、彼の頭を撫でる。汗ばんで、くしゃくしゃになった暖かな朱の色。そのままそれをかきあげるようにして、真人の頬に触れた。

「……もう、家族じゃなくなっちゃったね」
「……」

 なんだか少し、真人の顔が寂しそうに見えて。──こんな顔もできるんだ、と心の片隅で思った。どんな返答が来ても受け止めようと、一息おいて小百合は尋ねた。

「真人はさ……家族でいたかった?」

 ──彼は答えない代わりに無言でまた、小百合の口を自身のそれで塞いだ。そのまま、舌をねじ込まれる。激しいキスに搔き乱されながらも、小百合はそれに応える。応えたいと思った。しばらくして唇が離れた時には、二人ともまた軽く息切れを起こしていた。混ざり合った唾液を呑むように小さく喉を鳴らした真人は、小百合の肩に顎を乗せて抱き締める。

「……あんたが始めたんだ」
「うん」
「あんたが、もっと煽ったんだ」
「……うん」
「でも、……踏み越えたかったのは、僕も同じだから」
「……」
「…………もう戻れないし」
「…………うん」
「それならもう、いっそ、……消えないくらい。忘れられんないくらい、めちゃくちゃにしたい」
「……うん……」

 じゅくじゅくとまた、心が灼かれた。もううまく返せないくらい、ときめいてる。彼のために、溶かされている。
 真人のものが、小百合の秘部からぬぽ……と抜け出す。とろ、と白濁した液体が溢れ出た。吐き出された欲を見て、また興奮した。

「まだだよな」

 うっとりする間もなく、真人が小百合の頬を両手で挟み込み何度目かのキスをした。深く絡めてくる舌を迎え入れながら小百合は彼の問いに応じるよう、真人の下半身を手のひらで優しく愛撫する。──つい数時間前までこんな卑猥な音、聞いたこともなかったのに。淡い光に照らされる天井が、くちゅくちゅと鳴る唾液の混ざり合いの音を反響している。
 ぷは、と息継ぎをした小百合の手の中で、真人の欲望が再び膨らみ出す。

「……また硬くなってきた」
「……おかげさまで」
「えへへ……」

 真人は小百合から離れるとゆっくり、仰向けに寝転んだ。そして小百合の腕を引いて跨るように促す。

「次、あんたが動いて……乗っかるやつ」

 何気ないやりとりのように求められると、根っこが変わってないみたいで嬉しくなる。
 彼に言われたことをなんとなくイメージしながら、小百合は真人に尋ねた。

「ん……わかった。どうやるの?」
「……口で勃たせるとか?」
「口……」

 想像できないような破廉恥さにまたドキドキと胸を鳴らしつつ、小百合はぐうっと、自身の顔を真人のそれに近づける。自分が溢れさせた蜜に濡れ、彼自身が吐き出した欲望でどろどろになっているそれを、ためらうことなく口に含んだ。邪魔な髪を耳にかけて、ゆっくりと顔を動かし始める。とはいえ、一度もやったことのない行為だ。思うようには、うまくいかない。

「んぅ……んむ……んっ」
「っ……下手すぎ……」

 どこか呆れたような彼の声はいつも聞いているものに近い音だったから、驚くほどぎゅうっと心臓が高鳴ってしまった。冷静になるととんでもなく淫らな行為をしているのに、まるでお勉強を教えてもらっているときのような、甘いときめきだった。──全然違ったのは、真人が小百合の後頭部をやんわり掴んでゆるく腰を振りはじめたことだ。

「んっ……んぶっ」

 控えめでも、力強く喉の奥までじゅぶじゅぶ犯されて苦しい。それでもなんとか耐える。こんな扱いをされてるのに、おかしいくらい身体が火照っている。
 ──わたし、もしかしてマゾなのかな……。ちょっと不安になる反面、完璧な硬度を取り出したそれを真人は小百合の口から引き抜いた。また、唾液の糸がつうと伸びる。

「けほっ。……ん……もう……乱暴っ」

 なんとかそう抗議をすると、そうかも、みたいにちょっと申し訳なさそうな顔をする真人が可愛かった。さっき終えたばかりのはじめての行為セックスで得た高揚感は、なんだかふたりをおかしくさせている。小百合も秘部からまだ溢れる彼の精液の生々しさに、興奮を煽られたままだ。
 ふたたび「自分の中を暴きたい」と訴える真人のものに、躊躇うことなく恥ずかしい体勢で乗りあがった。熱い切っ先の先端に、自身の秘部をあてがう。これだけで気持ちよくて、おかしくなりそうで。ゆっくりと息を吐き出し、ゆるゆると腰を落としていった。

「んっ……あっ……あぁっ……」
「っ……」
「っふ……入った、よ……真人」
「……ん」

 深く沈んだ自分の腰に甘く痙攣しながら零した返事の代わりに、真人は小百合の腰を掴み下から突き上げた。

「ああぁっ!」

 突然の快感に小百合は背中を仰け反らせる。油断したところをごりごりと抉られて、身体中をひくつかせ打ち震えている彼女をよそに、真人は構わず動き続ける。

「あっ……あっ……あんっ!」
「っ……は…」
「やっ……あっ……! あ゛っ!」
「小百合……っ」
「まこ、っ、お゛……っ」
「っ……!」
「んっ……ん゛んっ……んぁ……っ」
「くそ……っ」

 とうとうだらしなく濁った声に、構う余裕もなかった。真人は小百合の腰を容赦なく掴み、激しく動かす。あんまりの乱暴さに小百合は涎を垂らしながら、それに合わせて自らも腰を振り始めた。結合部からはぐちゅんぐちゅんといやらしい水音が絶えず鳴り響く。それに重なるように情けない喘ぎ声が乗っかった。こんなの誰かに聞こえたらどうしたらいいの。半端に戻った理性で声を抑えようと、小百合は「んぐう」と唸りながら上半身を真人の胸板に凭れさせた。そんな彼女の想いも知らず、真人は小百合の身体を自分の方へ持ち上げ、華奢な首筋に噛みついた。

「んやぁっ……あ゛……あぁんっ!」

 獣に犯されるみたいな暴力性に脳が揺れた。それを自分にもたらしているのが、いつも物静かな彼であることも。痛くてじんじんする首筋すら愛おしくて、そのまま、激しく舌を絡ませあいキスをする。ついさっきファーストキスを終えたばかりの少年少女とは思えない、ひどく扇情的で、互いの呼吸を貪りあうようなものだった。未熟な性の暴走に溺れていた。
 舌と舌が絡み合う音も秘部から漏れる音も混ざり合って一つになる。小百合は本能的な気持ちよさだけを求めて、良い所に当たるよう無意識に腰をたぱたぱと上下させていた。真人の息遣いが荒くなる。もう限界が近いのがわかった。

「まこ……あっ……あんっ……まことぉっ」
「さゆ……りっ……っ……も……出るっ」
「わたしも、っイく……からっ……らし、え、出してぇっ」
「っ……!」

 指がめり込むほど強く腰を掴まれ、また真人の欲望が小百合の胎内で弾けた。二回目でも衰えてなどいなかった。鈍く、ずんと貫く衝撃で小百合も大きく絶頂を迎える。がくん、がくんと余韻のような痙攣をし、しなだれる小百合の身体を真人が支えた。

「……はあ……」

 なんだか空気が抜けたような声とともに、真人は小百合を抱きしめたままベッドに横になった。互いの体液でびちゃびちゃに濡れたシーツがいつの間にか冷たくなっていて、どれだけ激しく行為に耽っていたか感じさせる。
 どこかまどろんだ顔で、真人は小百合の頭を撫でた。指先が額に掛かった前髪を描き分け、そのままそこに優しくキスをされて。小百合はまた驚いてしまった。さっきまであんなにめちゃくちゃに乱れていたのに。普段の彼からは決して想像できない甘い仕草に、また生娘のようにときめいている。
 ──ほんとに超えちゃったんだ。境界線。
 この町に戻ってきて、重い気持ちのまま始まった新しい日々には、いつも「新しい家族」があった。色々なことを「家族としての距離」で乗り越える度に、意識的でも無意識の中でも膨らませていた彼、古荘 真人への気持ち。彼と自分はよく似ていると、一花 小百合は思っていた。だけどただひとつ、間違いなく違ったのが“性”だった。
 際限なく膨らんだ気持ちを昇華してくれたこの違いが、果たして自分たちの今後の人生に良いのか悪いのか、今の小百合には全くわからなかった。──でも、真人の気持ちを確かめることは出来た。それは、確実に言える事実だ。
 ひとしきり抱きしめあった後、真人のものが柔らかくなって、小百合の中から出てくる。栓を抜いたみたいにまた溢れ出る白濁が、つうっと太ももを伝うのが分かった。こそばゆくて、切ないような、妙な気持ちになった。

「ねぇ」
「……なぁに?」
「…………まだ足りないんだけど」

 もう一回。今度はちょっとだけ恥ずかしそうに真人が言った。すごく嬉しかった。だって、それはわたしもだったから。

「えへへ。うん……わたしも」

 小百合は、汗ばんだ真人の頬を両手で包み込む。お互い、長い夢を見てるかのようだ。彼の首に腕を回し、とびきり甘いキスをして──それからは体力が尽きるまで、互いを乱し合った。

    ◆

 差し込む朝日で目が覚めて、目の前に真人の顔があって驚いて。でも、びっくりしすぎて声が出なくてよかった。
 小百合は寝ぼけ眼から一気に覚醒して──でも、改めてまじまじと真人の顔を見た。いつでもちょっと、しかめた感じの眉。今は穏やかな弧を描いている。海みたいに深い青色の瞳は瞼に覆われていて、よく見るとまつ毛が長い。目を閉じた彼は、どこか可愛らしささえ感じる少年の顔立ちなのが改めて分かった。小百合はまた小さく、とくんと胸を鳴らした。
 ──わたしたちはやっぱり、愚かな子どもたちのままだ。一日二日で、変わるわけもない。不思議な町で暮らし、大人のやさしさに護られているくせに、その裏側で生意気に越えた境界の先で、後先考えずめちゃくちゃに混ざり合って。いつの間にか互いに一糸纏わない姿になって、幼さの残る両想いの果てに沈んでいた。
 あれからも、したことないような体勢ばかりした。言ったことのないような甘い言葉を絶えずばらまいた。そのせいもあって、身体中が重たく気だるげだ。涙で目の周りがぱりぱりになっている。敏感なままの肌は、布に擦れるだけで絶えず疼いてしまう。そっと目線を自分の胸元に落とすと、めいっぱいに彼に刻まれた噛み跡や引っ掻いた跡が見える。内出血の痕なんて、小さい癖にかなりの量で。
 ──これ、どうしよう……隠せるかな。いや。隠さなくてもいいかな。なんて、馬鹿なことを思った。

「……わたしね。ずっとこうなりたかったよ。真人のこと好きなんだって、気づいてから。家族でいられて嬉しかった。同じくらい、友だちだって思ってた。……でもほんとは一番の、“他人”でいたかったの。他人じゃないと、恋、できないもん」

 口を突いて出る独り言をありのまま呟き、真人の温もりを孕んだような髪に触れる。
 ──起潮力者としての薬を飲んでいるから、多分、妊娠一線を越えた結果は無いと思うけど。きみと本当の「家族」を築けるなら。──できてもいいよって、どうしようもなく愚かにも思った。
 さら、と彼の髪を撫でる。ちょっとちくちくしてる。満足して手を離そうとしたと同時に突然、ぐ、と小百合は後頭部を抱かれた。驚いた顔のまま真人の首元に顔を埋めさせられる。力強い手のひらが、暖かくて。耳元ですうっと抜けるような彼の呼吸の音が、心地よかった。

「あんたって、本当……変わってるよ」

 起き抜けの彼の低くて、優しい声が耳をくすぐる。──いつもそうだった。
 わたしがわからないというと、きみもわからないと言って、一緒に答えを探してくれた。きみはいつも等身大で、一生懸命で、それが大好きだったんだ。愛しさで胸が爆発しそうになった、その時に。

「朝よー! 起きなさ〜い」

 我らが家長の快活な声が響く。彼は毎朝、各々が鳴らしているアラームより早くその声を廊下に投げ入れてくれるのだ。たまにフライパンを鳴らしたり、ホイッスルを響かせる賑やかさまでおまけしてくる。これがいつも通り響いているということは、自分たちの行為はきっと、そこまで問題になっていない──そしていつもなら、彼の声で子どもたちはもぞもぞと起き上がり、各々のタイミングで着替え、自室を出る。
 この合図が廊下に響いた以上、その流れは何も変わらずいつも通りなのに。小百合と真人は見つめあったまま少し固まってしまった。踏み越えた境界線の後ろへは、なにがあってももう戻れないからだ。
 ──これからどうしよう。やっぱり色々、考えること、ある、よね。
 でも真人は何を思ったのか、小百合を再び強く自分に引き寄せて──優しく彼女の唇に、自分の唇を押し当ててきた。びっくりして「んむ」なんて声を漏らす小百合の唇を、真人はゆるく蹂躙する。ぬるりと濡れた舌を絡ませて、甘い水音を立てられると、小百合もなんだか応えなきゃいけない気持ちになって──目を閉じて小さく舌を回して、昨日よりはずっと穏やかなキスを続けた。
 やさしい朝の陽ざしのもと、罪悪感を二人で共有するように、甘く唇を噛まれ、深いところまで舌で犯され──小百合ははふ、と息を吐いた。ゆっくり唇が離れ、またつうっと唾液が糸を引く。

「……共犯だろ」

 真人が、彼特有の少し掠れた、ハスキーな声で言う。

「ここまできたら、お互い様だ。悪いことをしたんなら、それを忘れず進めばいいだけ」
「……真人」
「あんたは正真正銘、僕の妹じゃないし、僕もあんたの兄貴じゃない。……ごめん、順序、逆になったけど」

 好きだ、と小さく彼は言った。少女の全身が、やわく歓びを歌って。

「……おはよう」

 ──いつも通りのあいさつで、きっといままでとすこし、違う日々が始まる。

前半部分は2023年に書いてて、真人の部屋に入るあたりから先が書けなくてずっと置いていました。 ざっくりとした方向性はAIに提案してもらい、今の設定と推しカプに思う好きな要素を入れて終わりまでとりあえず書いたものになります。
2025.05.22

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